その日、高橋は戦慄した。高谷先輩の狂人さに。
お袖役が不在だったために、代役で彼に立ってもらったのだが、面と向かったときの圧が大きかった。
もともと、おもしろい人だと思っていたが、稽古とは言え芝居で対面したのは初めてのことである。
油断していた、完全に。
全力で笑わせにくるのだ。いや、もしかしたら、彼は笑わせようとは思っていないのかもしれない。しかし、何をしてもおもしろいのだ。
笑ってしまった。なんなら、吹き出してしまった。とても大事な、シリアスなシーンだというのに。ぺーぺーの高橋は、必死に笑いを堪えようとして堪えきれずに、笑うしかないのである。
問題は、高橋が大の笑い上戸なところにもある。思い出し笑いで軽く小一時間は笑い続ける自信があるのだが、それも敗因のひとつだろう。つまり、今日の稽古の高谷先輩を思い出して、次回の稽古も笑い出す可能性があるということだ。恐ろしいにもほどがある。
必死に作品と自分の役に集中したいと思う。
そんな高谷先輩は電気屋として登場する。瞬きせずに、彼に注目してほしい。
座敷童子の千代役、高橋結希でした。
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